.jpg)
Turing の山本一成CEO(左)と朴正圭兼職教授
山本一成チューリング共同創立者兼CEO Yamamoto Issei, CEO of Turing
2025年5月20日、KAIST(韓国科学技術院)技術経営大学院の朴正圭(パク・ジョンギュ)兼任教授が、日本の自動運転スタートアップ「Turing(チューリング)」を訪問し、山本一成(やまもと いっせい)CEOと面会した。山本CEOは、「2030年までに完全自動運転を実現する」という目標とともに、テスラを追い越すという大胆なビジョン『We Overtake Tesla(私たちはテスラを超える)』を企業スローガンに掲げている。【編集部注】
文 | 朴正圭 兼職教授、KAIST技術経営専門大学院
한글로보기
5月20日、KAIST技術経営専門大学院のパク・ジョンギュ兼職教授は、日本の自動運転スタートアップ「Turing(チューリング)」を訪問し、CEOの山本一成氏とインタビューを行った。
山本氏は大学在学中、将棋アマチュア五段の実力を持っていた。ある偶然の機会にコンピュータプログラムと人工知能について学び始め、将棋プログラム「Ponanza(ポナンザ)」の開発に取り組んだ。
初期の段階では、それほど強い将棋プログラムではなかったが、人工知能技術を導入することでPonanzaの実力は向上し、2017年には将棋の最高名人を破ることに成功した。
その後、「次に何をすべきか」を模索していた中で、カーネギーメロン大学で自動運転の研究をしていた青木俊介氏と出会い、2021年に完全自動運転システムの開発を目指すスタートアップ「Turing(チューリング)」を共同創業した。この会社は、創業当初から人工知能を用いたエンド・ツー・エンド(End-to-End)方式を採用し、完全自動運転の実現を目標としている。
筆者はまた、5月23日に横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展」にて、チューリングの共同創業者でCHRO(最高人事責任者)でもある青木俊介氏の講演を聞き、対話を交わした。
本日紹介するのは、日本においてエンド・ツー・エンド(E2E)方式で2030年までに完全自動運転を目指している山本一成氏とのインタビュー内容である
PARK, JEONGGYU 1)
こんにちは。韓国で自動車産業の調査と研究をしているパク・ジョンギュと申します。お時間をいただき、ありがとうございます。
近年、自動運転技術のトレンドは、従来のルールベース(Rule-Based)方式から、センサーデータを最初から最後までAIで一貫して処理する「エンド・ツー・エンド(End-to-End、以下E2E)」方式へと大きく転換しつつあります。
チューリングがE2E方式を採用し、完全自動運転に挑戦しているスタートアップだと伺い、ぜひお話をお聞きしたくて伺いました。
まずは、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?
私の理解では、東京大学在学中に留年された後、AIに興味を持ち、本格的に学び始められたと聞いていますが。
YAMAMOTO, ISSEI 1)
はい、その通りです。東京大学の新入生はまず駒場キャンパスに入るのですが、成績が悪いと本郷キャンパスに進学できません。私は成績が悪くて留年しました。
そのとき、時間に余裕があり、「これから伸びる分野は何か」と戦略的に考えるようになりました。2008年か2009年ごろだったと思いますが、その頃のAIは今のように注目されてはいませんでした。
ただ、ムーアの法則によって半導体の集積度が上がり続けている中で、「次に新しいことが起こるとすればAIではないか」と考え、AIの勉強を始めました。
PARK, JEONGGYU 2)
では、その頃がコンピュータやAIに初めて触れたタイミングだったのですね?
YAMAMOTO, ISSEI 2)
はい、そうです。正直に言えば、当時の私はキーボードを打つのもやっとというレベルでした。
PARK, JEONGGYU 3)
実は私は機械工学を専攻しており、修士・博士課程のときにプログラムを組んだことがあります。ただ、私が行っていたのは、あくまで正確に数式化された理論と問題があり、それを解くために問題を細かく分割し、コンピュータを使って計算して解を導き出すという方法でした。
いわばリダクショニズム(還元主義)に基づいてプログラムを書き、結果を得ていたのです。
ところが、AI(人工知能)について学び始めたとき、正直かなりの拒否感を抱きました。一言で言えば「これは一体何なんだ?」という感覚でした。なぜそのような結果が出るのか、うまく説明できないことが多かったからです。
たぶん私が機械工学を学んできたから、なおさらそう感じたのかもしれません。
山本さんもAIを勉強し始めたころに、そうした違和感を感じたことはありますか?
YAMAMOTO, ISSEI 3)
機械工学に限らず、多くの分野がリダクショニズム(還元主義)に基づいています。それは、「物事を分解し、その細部の構造を理解していけば、全体も理解できるはずだ」という考え方です。これは人類が複雑な問題を解決するために、これまで戦ってきた最も重要な方法の一つです。
ただ、こうした還元的なアプローチは、もしかすると人類が20世紀までに用いてきた問題解決の方法であり、21世紀、22世紀に向けては別の解決法が求められるかもしれません。
実のところ、私は子どもの頃から「何かを分けて分類(classification)する」というやり方があまり好きではなかったように思います。
PARK, JEONGGYU 4)
ということは、最初からAIが性に合っていたのかもしれませんね?
YAMAMOTO, ISSEI 4)
たとえば「分類」という行為一つとっても、文化圏によって異なります。
チョウを分類する場合、「蝶」という漢字は昼に活動するチョウを指しますが、夜に飛ぶチョウには別の漢字である「蛾」が使われます。ところが、フランスに行くと、そういう分類自体が存在しません。
分類の仕方は文明によっても違いますし、人の視点によっても変わります。
つまり、世界をさまざまに分けて見る方法もある一方で、私は「世界は必ずしもそうなっていないかもしれない」と考えるタイプなんです。
もしかすると、AIが自分に合っているのは、こうした私自身の哲学と関係しているのかもしれません。
人工知能はどうやって名人を超えたのか? 最強の長期AI Ponanzaの開発者が教える機械学習、深層学習、強化学習の本質、ダイヤモンド社、2017年出版、
PARK, JEONGGYU 5)
おそらく私がAIに対する最初の拒否感を乗り越え、「ただ受け入れた方がいいのではないか」と考え方を変えるまでには、4〜5年はかかったと思います。
自動車業界でも現在さまざまな変化が起きており、既存の自動車メーカーにとって受け入れがたいことも多いのですが、そのひとつが自動運転におけるアプローチの転換だと考えています。
これまではルールベースで、エンジニアがルールを設計してプログラムに落とし込む方法が主流でしたが、現在はエンド・ツー・エンド(End to End)方式への急速な転換が進んでいるように感じます。
特に、2025年の上海モーターショーを見て、その変化をより強く実感しました。
チューリング社は、最初からE2E方式によって完全な自動運転を目指しているのですよね?
YAMAMOTO, ISSEI 5)
はい、その通りです。従来の自動運転は、「認知」「予測」「判断」「制御」といったモジュールが個別に存在し、それぞれのステップを踏んで処理していました。
しかし現在では、一貫したネットワークを用いる方式に移行しています。
最終的には、物事を分類して処理するよりも、単一のネットワークを使い、「何が必要で、何が不要か」という判断を人間が行うのではなく、AIによって実行する、という考え方です。
PARK, JEONGGYU 6)
AIを用いてE2E方式で自動運転を行う場合、他の競合企業も皆E2E方式を採用してきたとしたら、どのように差別化を図ることができるのでしょうか?
AIといっても、結局のところ良い成果を出す企業もあれば、あまり成果を出せない企業もありますよね?
YAMAMOTO, ISSEI 6)
私たちはデータを自ら収集しています。したがって、AIを学習させるためのデータを非常に高いレベルで管理することを目指しています。
AIの学習用データを作るためには、人間が実際に道路を運転してデータを取得する必要があります。ですから、当社の現場をご覧いただければ分かると思いますが、優秀なドライバーを採用し、十分にトレーニングした上で、実際の道路で走行データを収集しています。
その後、そのデータをクレンジング(data cleansing)し、バリデーション(validation)を行い、正しいAIモデルを構築して使用しています。
途中で結果が良好かどうかを確認し、もし良くない場合にはデータの取得方法を少し変えてみて、改善されるかどうかを自ら検証しながら進めていきます。
つまり、一言で言えば内製化しています。
このような取り組みは、エンジニアの頭の良し悪しの問題ではなく、会社組織の構造や責任感の問題だと考えています。もちろん、優秀なAIプログラマーがいることが前提にはなりますが、それに加えて組織としての体制や文化が極めて重要だという認識を持っています
PARK, JEONGGYU 7)
最近、上海モーターショーに行ってきました。そこで、Horizon Robotics(地平線)という会社が開発した自動運転システムを搭載した車に試乗しました。
複雑な中国の道路を、ほぼ1時間にわたって自動運転で走行し、人間の介入は1回程度というレベルでした。
かつてとは違い、中国がAI分野で非常に速いスピードで自動運転システムを構築していることに驚きました。
なぜこれほどまでに急速な発展が可能だったのでしょうか?
YAMAMOTO, ISSEI 7)
今この分野に飛び込んでいる人たちは、基本的にある程度は頭の良い人たちです。
最終的に必要なのは、どれだけ真剣に課題と向き合うか、使命感があるか、そしてこの仕事を心から愛しているかどうか、ということだと思います。
そして経営者の役割は、そうした人たちが仕事をするうえでの障害を取り除くことです。
特に日本や韓国は、まるで双子のように似ている部分が多く、官僚的な傾向が強いですが、それに対して中国の最近のIT系スタートアップの創業者たちは、人々がその能力を存分に発揮できるような環境を作っている。
それが、中国における急速な発展の理由なのではないでしょうか。
PARK, JEONGGYU 8)
現在、チューリングは2030年に完全自動運転の実現を目標としています。
2030年というと、もうあと5〜6年しか残されていませんが、それは、もしルールベース方式であれば自動運転のレベルは線形的にゆっくりと向上していくのに対し、チューリングが目指すE2E方式であれば指数関数的にレベルが急成長する可能性がある、と考えているからでしょうか?
YAMAMOTO, ISSEI 8)
最近では、LLMやChatGPTのような技術が非常に高いレベルに達し、一定の常識を持ったAIが生まれつつあります。
そうした進展を見る限り、2030年に完全自動運転が実現できない理由が、私には見当たりません。
PARK, JEONGGYU 9)
チューリングは他社と比べて、VLM(Vision Language Model)にかなり力を入れているという印象を受けました。それはなぜでしょうか?
YAMAMOTO, ISSEI 9)
完全自動運転を実現するには、そのシステムが**常識(common sense)**を持っていることが絶対に必要です。
それは単に車が白線の間を走ればよい、という話ではなく、**身体性(Embodiment)**を備えた存在として設計されるべきだと考えています。
たとえば、2〜3歳の子どもを想像してみてください。
彼らは身体を持った知性体として生まれていますが、まだその身体性を完全に獲得してはいません。
知能を完全には得ていないために、さまざまな行動を取ります。
物を投げたり、口に入れてみたり、触ってみたり、ときには高い所から落ちて頭をぶつけて泣いたりします。
それは、物理空間の中で「ある行動を取ったとき、どのような結果や副作用が生じるのか」を学習しているのです。
したがって、自動運転のためのAIを作るには、こうした経験を積ませる必要があります。
そのために、まず私たちは大規模な走行データの収集を行っています。
自動運転を実現するには、まず「運転とは何か」をAIに教えなければならず、それに応じた膨大な量のデータが必要となります。
例えば、私たちは毎日8時間ずつ、朝5時に集合し、夜23時まで運転しています。もちろん途中に交代時間はありますが、年間355日、週末も含めて稼働しています。
実際、チューリングで一番大きなチームはAIチームではなくデータ収集チームです。
このチームには、かつて自動車メーカーでテストドライバーをしていた方や、警視庁で白バイ隊の指導者だった方、あるいはレースドライバー出身で反射神経と運転技術に優れた方々が所属しています。
そうした方々の「運転が上手いとはどういうことか」という知見を、そのまま経験としてAIに伝えるという方法で学習を進めています。
そしてもう一つ、チューリングは**高度なVLM(Vision Language Model)**の開発にも取り組んでいます。
VLMはLLM(Large Language Model)の次の概念であり、「Vision」は視覚情報、「Language」は言語を意味します。
それらを統合した「視覚-言語モデル」と呼べるものであり、自動運転AIに常識や文脈理解を持たせるための重要な要素です。
PARK, JEONGGYU 10)
VLMに取り組むには、相当なレベルの投資が必要なのではありませんか?
YAMAMOTO, ISSEI 10)
私たちの会社にとっては、ChatGPTのようにすべてを知っているようなものを作る必要はありません。
必要なレベルに達していれば十分なのですが、それでも道路や交通に関する情報だけでなく、やや高度な領域である「人間に対する理解」まで可能にしようとしています。
一定のバランス感覚が求められる部分だと考えています。
PARK, JEONGGYU 11)
中国に行ってみると、Horizon Robotics(地平線)という自動運転システムを開発している会社があり、ここではSoC(システムオンチップ)まで自社で開発しています。
一方で、Momenta(モメンタ)という会社はSoCは作らず、自動運転システムのみを開発して完成車メーカーに提供しています。
現在、チューリング社はSoCの設計まで行う予定はありますか?
YAMAMOTO, ISSEI 11)
チューリングでは現在、SoCにはNVIDIAを使用しています。
もちろん、SoCを搭載するボード全体は私たち自身が設計していますし、ミドルウェアも自社で開発しています。
現時点ではSoCそのものの設計までは行っていませんが、“悲願”と呼びたくなるほど、ぜひ取り組んでみたいという思いは強く持っています。
PARK, JEONGGYU 12)
現在、チューリングが開発している自動運転ソリューションは、完成車メーカーへの提供を目指しているのですか?
それとも、自社で電気自動車を製造するところまでを視野に入れているのでしょうか?
YAMAMOTO, ISSEI 12)
自社で電気自動車を製造するところまでは考えておらず、自動運転システムを開発し、それを完成車メーカーに提供することを目指しています。
もちろん、自動車メーカーが車両を開発する初期段階から参加し、センサーやさまざまなデバイスを適切に取り付けられるように、共同で作業を進めていく必要はあると考えています。
PARK, JEONGGYU 13)
トヨタは中国でMomenta(モメンタ)の自動運転ソリューションを導入して車両を製造し、かなりの販売実績を上げているそうです。
結局、チューリングもMomentaと似たビジネスモデルだと考えてよいのでしょうか?
YAMAMOTO, ISSEI 13)
はい、その通りです。ただ、中国のMomentaが海外市場に進出するのは難しいのではないかと思っています。
そのような状況の中で、英国にはWayve(ウェイヴ)という企業がありますが、我々にはまだある程度の時間があります。その間にチューリングとしては自動運転ソリューションをしっかりと作り上げていけばよいと考えています。
PARK, JEONGGYU 14)
Momentaの技術レベルはどの程度だとお考えですか?
YAMAMOTO, ISSEI 14)
正直に言って、私はMomentaをリスペクトしています。
アメリカでテスラの自動運転や、イギリスでWayveの車に乗ったことはありますか?
Momentaはテスラのレベルにはまだ達していないかもしれませんが、それでもかなり高いレベルの自動運転が実現できていると思います。
PARK, JEONGGYU 15)
アメリカやヨーロッパには、自分の予算ではなかなか足を運んで調査するのが難しいため、実際に試乗することはできていません。
日本や中国であれば、自分で直接訪れて調査を行っています。
現在の日本の完成車メーカーの自動運転技術のレベルや方向性について、どのようにお考えですか?
YAMAMOTO, ISSEI 15)
従来の完成車メーカーは、どうしても還元主義的な思考やウォーターフォール型の開発プロセスに慣れているため、アジャイル開発やAIを活用したE2E方式への移行は容易ではないと思います。
そうした中で、トヨタは中国のMomenta(モメンタ)の技術レベルを評価し、現在では日産もイギリスのWayve(ウェイヴ)と共に自動運転ソリューションを共同開発するなど、AI中心(AI-centric)の企業との協業を始めています。
私たちチューリングも、そうした流れに乗って事業を展開していきたいと考えています。
テスラは、ハードウェアとソフトウェアの両方を自社で開発できる唯一の企業であり、本当にすごい存在だと思います。それが可能なのは、創業者がハードとソフトの両方を深く理解している人物だからだと考えています。
中国でも、AIを中心に据えた企業が急速に成長しているのは、ソフトウェア出身の創業者が多いためでしょう。
とはいえ、私たちチューリングは、そうした競合に打ち勝ちたいと思っています。
PARK, JEONGGYU 16)
最後の質問になりますが、チューリング社を訪問した際、「We Overtake Tesla」という言葉が会社のビジョンのように大きく掲げられているのを見ました。
普通の企業ではあまり見ない光景だったので、少し驚きました。その言葉に込めた思いや背景を教えていただけますか?
YAMAMOTO, ISSEI 16)
テスラは、自動車産業に革命を起こした、本当に尊敬すべき企業です。
なぜ私たちがこのように大胆なミッションを掲げたのか、その理由を説明させてください。
「AIで人々をワクワクさせよう」といった、誰もが賛成できるようなミッションは絶対に掲げないと、創業前から決めていました。
スタートアップの本質は、世の中に革新を問いかけることにあります。だからこそ、私たちのミッションは万人に賛同されるものではありません。本当の革新は、いつの時代も必ずしも全員の支持を得られるものではないからです。
私たちは、目標が大きく、人によって賛否が分かれるようなミッションを持つべきだと、創業前から決めていました。
たとえば「We Overtake Tesla(私たちはテスラを超える)」と掲げておけば、会社の日々の意思決定すべてが
**「これはテスラを超える方向なのか」**という基準で行われるようになります。
チューリングは、大きくなってテスラを超えるか、そうでなければ滅びるか、どちらかしかありません。
それはこれまでずっとそうでしたし、これからも変わることはありません。
朴教授がチューリングの共同創業者兼最高人事責任者(CHRO)である青木俊介とポーズを取った
<저작권자 © AEM. 무단전재 및 재배포, AI학습 이용 금지>